修了できない人が3割!?ドイツ大学院の難易度と卒業までのプロセスを解説します

ユンカー時代の貴族構造気質を反映するように、ドイツはイギリス同様のエリート階層社会として知られています。日本よりもとりわけ学歴フィルターが厳しいドイツで、それゆえ大学や大学院に行く価値が出てくるわけですが、当然、そういったドイツ社会の上澄みのような連中が集まる大学・大学院の試験は、易しいものではありません。

私の通っていた大学院は、ドイツ国内でもトップ5に入る割と「良い」大学院でしたが、それはイコールで試験競争が厳しいこと意味しており、卒業に至る道は簡単ではありませんでした。

実際に、私が入学した時の同窓生50人程度のうち、ドイツ人ですら2割程度は途中でドロップアウトしてしまって、私以外の非ドイツ人勢(南米、中国人等)は全滅、という有様でした。明確な統計は見当たりませんでしたが、周りの話を聞く限り、2~3割はドロップアウトするのではないかと思います。

今回は、そんなドイツの大学院生活の、試験と単位、という部分にスポットライトを当てて紹介していきたいと思います。

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]ドイツ歴5年の村上です。ドイツの一流大学院を卒業し、現地で就職した実体験から、ドイツの大学院を卒業する難易度を解説していきます。[/word_balloon]

ドイツの大学院の単位制度

私は日本では私立の大学に通って、大学院からドイツに来たわけですが、単位の取得構造としては、そこまで違いは見受けられませんでした。というのも、ドイツの場合、大学院は大学の延長戦上にあるもので、特に分野のなかで特化したい領域があれば、その分野を重点的に勉強する、という性質のものです。

例えば、私が就学していたのは「BWL」という、商学と経済学を掛け合わせたような、ドイツのビジネス系の専攻でもっともポピュラーなものですが、学部レベルですと、ただの「BWL」という広範な領域を勉強させられます(ミクロ、マクロ、統計、会計、etc…)。

大学院になると、その中からさらにスペシフィックな領域、例えばロジスティック、Accounting, Consulting, Information Managementなどを選ぶようになり、将来の職種に直接結びついてくるような学問領域が増えてきます。

というわけで、呼称は違えどシステム的には学部と大差ないわけなので、要するに大学院生の本分は単純明快、「単位を集めて卒業する」ということです。

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]ドイツの大学システムでは、大学院は大学の延長線上にあり、文系の4~5割が大学院に進学します。学部時代よりも、より専門的な知識を身に着ける場として考えられています[/word_balloon]

単位の取得にはいくつか方法があり、オーソドックスなものだと「試験」が挙げられます。続いて、「セミナー(論文+プレゼン)」、「語学コース」、そして大学や学部によっては、「研修」や「インターンシップ」で単位認定してくれるところもあります。

上記の組み合わせを用いて、卒業までに必要な単位を、通常4セメスター以内に取得し、卒業する(ただし、インターンシップのために休学すると、2年半~3年に延びることもあり)というのがドイツの大学院の仕組みです。

例えば、私の大学院では、卒業までに必要な単位数は120単位(うち30単位は卒論)でした。一つの科目を履修して得られる単位は3~6単位で、4セメスターで卒業するには最低でも15の試験をクリアしなくてはいけない計算になります。

そのうち、24単位は必修科目、つまり学部側が指定した科目がありました。また、120単位のうち12単位は「数学系」の用意された科目の中から、2つ、任意に選択するという質のものでした。さらに、24単位は「商学系」の用意された科目のうち選択可能、12単位はセミナー枠、残りの18単位は他学部、語学コースや交換留学などから換算してもよい自由枠、のような感じでした。

私の感覚で行くと、試験の難易度的には以下の通りで、日本にいたころは、受験でも数学を使って、センターでも9割とっていましたが、ドイツでは最低に近い成績をたたき出してしまいました。

数学系必修科目>>学部必修科目≧卒論>>その他

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]とにかく、必修系は落とすと卒業が出来なくなるので死に物狂いで勉強しなくてはいけません。一度その専門で卒業できないと、ドイツでは同一学部で就学しなおすことができません・・[/word_balloon]

理系分野の数学と違って、ビジネス関連に絡ませてくるので、ドイツ語+数学という、今まで使ったことの無い脳の組織を使用するような感じでした。具体的に例を挙げると、A社は毎年売り上げがいくら、固定費がいくら、人件費がいくら、新しい機械を買ったらいくら、この場合、どうやったら来年の利益が最大になるかグラフを使って証明せよ、みたいな感じです。

ちなみに、必修科目系は、限られた数しか科目が用意されていないにも関わらず、2回試験を落とすと二度とその科目は受験できなくなり、そうすると必然的に卒業条件も満足できなくなるので、事実上詰むわけです。ドラクエ7で喩えると、石板を見つけられずに先に進んでしまう形になります。

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]留学して最初の1学期目は、どの日本人も慣れないため成績は概して悪いです。そこから、自助努力で徐々に成績を上方修正していく必要があります。[/word_balloon]

[word_balloon id=”3″ position=”R” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]言語の壁だけでなく、そもそもの試験のシステムや採点方式が違うから日本の学生は特に試験を落としやすいわね。[/word_balloon]

ちなみに、ドイツの会社に就職する場合、大学・大学院時代の成績がかなり重視され、できればGPA3.0以上、最低でも2.5以上欲しいといわれています

私は上記の数学の試験で合格最低点、GPA換算で1.0(ドイツ式でいうと4.0)という恐ろしい成績をたたき出してしまい、これを均してGPA平均3.0にもっていくためには、ドイツの学生の上位6%しか取れないという「優良(1.0)」の成績を、少なくとも2つの科目でとらなくてはいけなくなりました。

単位の取得方法と良い成績の取り方

さて、ドイツの試験制度がどんなにヘビーか分かってもらったと思います。ここで、単位の取得方法について、それぞれ詳しく解説していきたいと思います。

試験

上述した通り、一番オーソドックスな単位の取得方法が、この試験です。出席点もレポート点も加算されず、無慈悲に一回の試験の結果のみで、単位の取得不取得が決定されます。大学ごとに、推奨される単位ごとの勉強時間が要綱などに記載されていると思いますが、私の大学院の場合、推奨される学習時間は、6単位につき「100時間」程度でした。

1セメスターに30単位、ということは、全部で5科目、1セメスターに合格しなくてはいけないわけで、単純計算で言うと、100時間×5科目=500時間、1セメスターに勉強に費やさなくてはいけないわけです。この地獄が4セメスター続きます。

試験系で効力を発揮する勉強方法は3つ。一つは、ひたすら授業で使われるスライドの暗記です。ドイツ人は「auswendig zu lernen」と揶揄しますが、ドイツ人学生間ではもちろんのこと、我々のようにドイツ語ネイティブではない国出身の学生にとっても、時間さえかければそこそこの成績が残せる伝家の宝刀です。

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]「auswendig lernen(丸暗記)」作戦は、学部生の常とう手段ですが、もはやなりふり構っていられない場合この作戦を多用します。効率は悪いですが、確実に単位は来ますので[/word_balloon]

二つ目は、スライドの引用文献の熟読です。多くの場合、授業で使われるスライドなどは、なにかしらの引用文献をもとに作られており、授業の最後などに、教授が「推奨する文献」を教えてくれます。それを、ひたすら熟読・内容理解すると、筆記系、説明系の小問で良い点が取れます。

三つ目は、過去問の利用です。Alte Klausurenと呼ばれ、学生の自治団体や、あるいは管轄の学部などに聞くと、貰える場合もありますし、もらえない場合もあります。貰えない場合は、試験を受けたことのある友人などに聞いて、最低でも漠然とした内容をつかんでおけば、対策が立てやすくなります。私の場合は、友人のドイツ人に有能な奴がおり、非公開の過去問を毎回どこかしらから調達してきては、こっそり見せてくれていました。

ちなみ、通算GPAを底上げする方法として、単位の置き換え制度が挙げられます。上述のように、一回ものすごい悪い成績をとってしまうと、挽回が至難の業なのですが、同じ科目カテゴリの別の試験を受ければ、成績を良いほうに置き換えられる、という裏技があります(大学によるかも知れませんが)。ドイツ人学生の間では公然と知られているテクニックなのですが、入学当初の私は知りませんでした。

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]このように、一度悪い成績をとってしまっても、色々な大学のシステムをやりくりすれば、どうにか底上げできるような救済措置は残されています。[/word_balloon]

[word_balloon id=”3″ position=”R” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]この辺の仕組みは、待ってても誰も教えてくれないから、ドイツ人の友人に聞いたり、こうしてインターネット上で情報収集するしかないわね・・[/word_balloon]

セミナー

上述の、試験に続いてオーソドックスな単位取得方法だと思われるのが、セミナーと呼ばれる授業形式です。これは、日本の大学でいう「ゼミ」に近い形式ですので、上述の試験に比べると、まだ教授の温情が成績に加算されることもあります。

具体的になにをするのかというと、20人程度の少人数のクラスを教授が持ち、毎週1~2回ゼミが開催され、方法論を述べた後、その方法論をもとに、自分で論文を作成する、という感じです。論文というのは、日本の大学のレポートは違い、文字通り「論文」です。卒論ほど長くなくてもいいのですが、それでも6000~7000Wordsくらいは書くことを要求されます。

論文を書くと、今度はそれをドイツ語なり、英語なりでみんなの前で発表し、質問攻めにあいます。これが嫌という人もいますが、私は試験に比べて、まだ努力点を加算してもらえるので好きでした。

豆知識ですが、論文の最後にReferenceを付記しなくてはいけませんが、その際に「Citavi」という無料のソフトウェアを使うと便利です。作者50音順にきれいに並べてくれます。

[word_balloon id=”5″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]ゼミはもっとも好みが分かれる単位取得方法の一つですね。頑張った分だけ成績がもらえるので、僕は好きでしたが[/word_balloon]

[word_balloon id=”3″ position=”R” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true” avatar_hide=”false” box_center=”false”]アジアの女の子の中には、人前で話すのが苦手って子もいるから、どの単位取得方法が適しているかは人によりけりね。[/word_balloon]

卒論

大学院で学んだことの集大成として、最後に卒論を完成させなくてはいけません。大体、大学院の場合想定される卒論の執筆期間は20週間程度で、たっぷりと猶予が与えられる反面、完璧なクオリティを求められます。

卒論の本質はクリエイティブなものですので、世の役に立つことが求められます。ただ、それはあくまで建前で、本質的には「世の役に立つ」とは、大学院の場合、「教授の役に立つ」というのと同義です。教授の研究の役に立つ分野の場合喜ばれますし、教授の協力も得られます。

一見すると、教授の意向に沿う卒論を作成することは自然なように思えますが、実は、ドイツの場合そういうわけにもいかない事情があります。なぜかというと、上述の通り、ドイツの場合学生をしながら有給のインターンをすることが一般的なので、その企業側から「卒論のトピックにうちの会社のためにリサーチをチョイスしてくんない?」と相談を持ち掛けられることがあるのです。

[blogcard url=”https://uueuro.com/intern-germany/”]
ドイツのインターンは青田刈りの性質をもつので、そこで会社の覚えが良ければそのまま採用となります。ところが、企業の求めるリサーチ=教授の求めるリサーチ、とは限りません。そういうわけで、企業の顔色ばかりうかがって教授の意向を無視すると、今度は卒論の評価で恐ろしい結果が来るわけです。

大学院を卒業したら・・・

さて、最後に、こんな苦しい思いをしてドイツの大学院を卒業すると、ご褒美としてどんなことが待っているのか、簡単に触れておきましょう。上述の通り、ドイツは階級社会の名残があり、キャリアを積むうえでは、大学院卒者>大卒者>その他という企業一般の認識があるように思えます。

というわけで、ドイツの大学院を卒業すると、ドイツ階級社会の曲がりなりにも上位に躍り出ることができるわけで、就活でも割と優遇されます。

[blogcard url=”https://uueuro.com/germany-university/”]
大学院生卒の初任給は、一般的に額面で40,000€~45,000€と言われており、これは日本円に換算すると520万円~580万円程度にあたります。日本の大学院卒の初任給が額面年収で280万円であることを鑑みると(引用元)、優遇具合が知って取れます。

就労ビザの点で言うと、なにもバックグラウンドがない状態から就活を始めるより、はるかにビザがおりやすく、その点、面接でも他の外人に比べて圧倒的に有利です。