【失敗体験5】41歳童貞をこじらせた男性がフランス語学留学で味わった屈辱

反面教師という言葉の示す通り、人の過ちは時として成功例よりもよいお手本になります。きらびやかなイメージのその裏で、海外留学という選択肢は、時に人のキャリアやその後の人生のレールを大きく脱線させます。

今回は、フランスでの就職と、フランス人との結婚を夢見て日本での19年勤めた会社を退職、単身パリにわたった上原さん(41歳)のお話です。

親のコネで地場企業就職:ネットナンパに費やした30代

上原さんは、地元の大学を卒業後、親の紹介でそのまま地元の老舗の印刷業に入社、営業職としてのキャリアをスタートします。

老舗で、いくつかの太い顧客を抱えていた企業だったため、基本的にはルート営業が中心でした。そのため、新規開拓にそう神経をすり減らすこともなく、年功序列型の人事制度にのって、コツコツとキャリアを積み上げていきます。

地元で有名ながら、あくまで中規模の会社のため、給料は30歳を過ぎたあたりから400万円程度でたかどまりし、その後は小規模な内部昇進などあっても、額面がそれ以上あがることはありませんでした。それでも、親元に暮らす上原さんにとっては十分な額です。自然、貯金も溜まっていくこととなりました。

仕事は割と充実していた上原さんですが、プライベートは基本、親との会話が主で、その他の人付き合いは乏しい状態でした。

元々恋愛には奥手で、職場にも女性がいなかったため、上原さんは40歳を過ぎても独身生活を謳歌していました。いずれは結婚したいという願望はあったものの、上原さんの理想は高く、中々チャンスに巡り合えずにいました。

そのため、上原さんは、日本ではなかなか自分を理解してくれる女性には会えないと思い、30歳になるくらいから、International Cupidなどのアプリを使って、休日は海外の女性のネットナンパを繰り返します。

出会い系などで白人にメッセージを送ると、何パーセントかの確率で返事が返ってきます。そうした密かな楽しみは、上原さんは、自分は日本人女性にはモテないが、海外に行けばモテるんじゃないか、という期待を膨らますのに十分でした。

ただ、返事をくれる女性の多くは、日本に住んでいない人ばかりで、仕事で忙しい上原さんには、ヨーロッパまで会いに行く時間もありません。

ただ、漠然と、心のどこかで「自分も、ヨーロッパに移住すれば、白人と結婚できるんじゃないだろうか」という心情が芽生えるようになってきました。

こうしたネットナンパを経て、上原さんは、なんとなく、自分の英語力が磨かれている気がします。英語での仕事、ヨーロッパでの就職、と、英語で夜な夜な女性にメッセージを送りながら、上原さんは妄想を膨らませます。

突然の退職と、フランスへの移住

さて、そんな中、上原さんはついに40歳の誕生日を迎えます。

40歳を過ぎた上原さんは、今まで親の敷いたレールの上を歩む人生に区切りをつけ、海外で大きなことをしてみたい気持ちを両親に告白しました。今まで、料理も一人でできなかった上原さんの突然の告白に、両親は驚くと同時に感激します。

親元で40歳まで暮らした上原さんにとって、海外はおろか、日本で一人暮らしをした経験もありませんが、インターネットで情報収集すると、日本人は海外で尊敬されており、日本での仕事経験があれば仕事を探すのも難しくない、と書かれていて、なんとなく自分でも生活していけそうな気がしてきます。

おまけに、長年のネットナンパを通じ、白人に自分はモテるんだ、という下心も働きました(※ちなみに、マッチングアプリ上では多かれ少なかれサクラが交じっているため、どんなにイケてなくてもたまに声はかかります)。

特に、フランス、ドイツ、あたりは、ビザ的にも、生活水準的にもよい環境で、心地よい生活が送れそうでした。

ただ、実際に移住するとなると、特にやり方もわからないので、ツイッターで見かけた留学生や、ブロガーに手当たり次第メールを送って、留学の仕方を聞いて回ります。

「弊方40歳、日本の上場企業に勤めるサラリーマンで、心機一転しフランスへの留学を志します。留学方法について、いくつか聞きたい点があるため、電話で教えてもらってもよいでしょうか?また、弊方に合う大学のリストなどを頼めますか?多謝」

ただ、そういった人たちに聞いても、上から目線の上原さんのメールに返事をしてくれる確率は多くなくありません。こうしたブロガーたちの態度を見て、上原さんは内心「困っているのに返事をくれないなんて、なんて失礼なんだ」と不貞腐れます。

そんな中、唯一、親切に返事をくれたパリ在住の日本人女性の話によると、フランスは日本人にとっても日系企業が多く、フランス語の語学学校もレベルが高いため、まとまった資金さえあれば、移住するにはお勧めであることを聞きます。

「この女性の言った通りにしよう」と、上原さんは、19年にわたって勤めた会社を離れ、41歳にして、パリの語学学校に通い始めることにします。目指すは、現地での転職と、白人女性との結婚です。

フランス語のフの字もわからない41歳男性

フランスに移住するとき、上原さんの中の第一の目標は「就職」でした。今まで親の言うことに従って、塾に通い、地元の大学に入り、地元の老舗企業に就職しましたが、そんなレールを外れ、ヨーロッパで活躍し、世界を変えたく思います。

とはいえ、上原さんの中に何か具体的な現地就職の案があったわけではなく、ネットで聞きかじった、ITやヘッジファンド系のビジネスをやってみたいという、プランと呼ぶにはあまりに稚拙な、漠然とした目標があるだけです。

その目標のための第一歩として、まずは現地人の言葉を理解する必要があると、上原さんは考えます。

上原さんの中で、フランス語を身に着け、現地の人とコミュニケーションできれば、日本とフランスの間にたってITやヘッジファンドの仲介ができるチャンスが生まれる、という都合の良い思いがありました。

アパート入居当日、オーナーが現れず、鍵がもらえないというトラブルが発生します。上原さんは、ブログで知り合った日本人女性を家まで呼び出し、オーナーに電話をしてもらい、事なきを得ました。

「フランス人はなんて失礼なんだ」と、上原さんは通訳をしてくれた女性に怒りをぶつけます。

まるでクレーマー、世間知らずの悲しきアラフォー男性

上原さんが申し込んだのは、1年間のフランス語学学校コースです。一年も滞在すれば、最終的にはフランス語がペラペラになる予定でした。

多くの語学留学生が勘違いしていますが、実際には、留学し、現地に滞在していれば勝手に現地語が身につくわけではなく、平行して地道に自習をこなす必要があります。

上原さんは、フランス語のフの字も知りません。そのため、入れられたのは基礎の基礎であるA1のクラスですが、そこでも上原さんはさんざんクレームをまくしたてます。

「なんで女性名詞と男性名詞があるの?」「ああ、なるほど、そういう意味か、だったら最初からそういってよ」と、ことあるごとに教師に食って掛かり、授業を中断させます。中にはそんな浮いた上原さんを面白がって、あからさまにからかう学生などもいます。

そんなこんなで、入学から1週間で、すでに上原さんは語学学校では知らぬ人のいない有名人になっていました。

もちろん、良い意味ではなく、上述の通り、周りとの間隔のずれから、女性生徒には避けられ、男子生徒には面白がって絡まれる始末です。

さすがに鈍感な上原さんも、次第に、自分が馬鹿にされていることに気が付き始めました。クラスの講師に直談判をし、今のクラスはレベルが低いから、もう一つ上のクラスに行かせてくれ、と言いますが、当然聞き入れてもらえません。

住む家のほうも、初めての一人暮らしということもあり、トラブル続きです。

「お湯が出ない」「窓の開け方がわからない」と、ことあるごとに、ブログで知り合った日本人女性に助けを求めますが、しまいには愛想をつかされ、着信拒否をされてしまう始末です。

親元で41歳まで暮らしていた上原さんには、料理の仕方もわからず、スーパーの冷凍食品を買ってきて、電子レンジでチンをして食べる食生活が続きます。

全く白人女性に相手にされない

上原さんがフランスに来た就職以外の理由は、現地女性と結婚することです。上原さんは、30代からマッチングアプリを使用していた経験があり、オンラインでの女性の口説き方には自信がありました(実際に会ったことはなかったが)。

ところが、いざパリでマッチングアプリを行ってみると、まったくと言っていいほど引っ掛かりません。課金をしたり、年齢をこっそり鯖読みして35歳に引き下げてみても、一向に芳しくありません。

語学交換アプリで、日本語を勉強したい、というフランス人女性を誘ってみますが、こちらのほうも、まったく返事が返ってきません。ちなみに、マッチングアプリにしろ、語学交換アプリにしろ、圧倒的に女性の売り手市場のため、女性側はこうした手合いにはうんざりしています。

パリには、日本人や韓国人の留学生が多く、街には、アジア人と白人のカップルが多く歩いていますが、それらを見ると、上原さんは「なんであんなやつらに彼女がいるんだ」といら立ちを隠せません。

オーナーとのいざこざと日本への帰国

恐らく、上原さんの中で、来たことのないフランスという国は、ある意味、ファンタジー物語に出てくる理想郷のように映っていたのかもしれません。

そこで、上原さんは異国から来た王子様のように扱われ、就職も結婚もすべてがうまくいくはずでした。

実際に訪れ、住んでみると、至るところで欠点が見つかります。ネットの情報とは異なり、日本人が女性や現地人にちやほやされるわけでもありませんし、フランス語は難しく、授業についていけそうにもありません。

挙句の果てに、頼りにしていたパリ在住の日本人女性にも愛想をつかされ、上原さんとしては、裏切られた気分でいっぱいです。

結局、現地就職どころか、現地での一人暮らしもままならぬ状況で、オーナーとは絶えず喧嘩が続き、わずか2ヵ月で家を追い出されます。

そのまま、行く当てもなく、しばらくホテル暮らしを続けていましたが、結局ばかばかしくなったのか、そのまま語学学校も退学し、日本へと帰国していきました。

結局、わずか2ヵ月のフランス留学で、上原さんの得たものは何一つなく、再び自分のプライドを傷つける者のいない親元に帰っていきます。その後、すでに退職をした会社に何食わぬ顔で復職の依頼を出すも、当然受け入れてもらえず、フランス留学から1年たっても無職が続いています。