留学は様々な経験ができて、楽しい面もあれば難しい面もたくさんあります。今回は留学生として苦労した点をお話ししたいと思います。というのも、クラスにチェコ人、スロバキア人以外の学生は私一人だったのです。授業はすべてチェコ語のため、外国人は私以外いませんでした。外国人が一人だった場合に陥ってしまうお話をしていきます。今回は主観的なお話しなので「チェコがこうだ!」と断言はしませんが、外国人としてチェコ語で勉強する苦労をお伝えします。
[blogcard url=”https://uueuro.com/czech-national-university-flow/”]
チェコ語での大学生活はサバイバルだった
同じ高校出身の地元民グループが既にあって、入りづらい
入学してすぐのころ、私はクラスメイトが意外と同じ高校出身者が多いことに驚きました。すでに出来上がっているグループに入るのは難しいですよね。チェコ人は日本人の想像する典型的なフレンドリーな外国人ではありません。みんな結構シャイです。若い人は特に脱力系な人が多い気がします。仲良くなると家に呼んでくれることがありますが、そこまでの距離感になるにはかなり時間がかかります。
ネイディブ同士の会話には入っていくのが難しい
私のチェコ語のレベルは入学時B2(日本語能力試験のN2程度)でした。それは、大学に入学するのに必要なレベルであり、生活に困らなく、チェコ人と世間話もできるレベルです。しかしこれは一つの目安です。実際に入学して、授業に参加してみるとチェコ語がこんなにわからないなんて、思ってもみませんでした。
授業では「私はこう思う」と言う意見を言う前に、クラスメイトの間でどんどん新しいアイデアが出されてしまい、その変わりゆく話についていけないことが多々ありました。自分の意見は、話の途中で流されていくことがほとんどでした。海外では、自分の意見を発言できない人は、無視されることが多いです。そして、その話を聞こうと待ってくれる人もいません。何かアクションを起こさない人物は、チェコ人にとって、その授業に興味がないか、もしくは参加することを拒否しているように感じるみたいです。
これは私の失敗談でもあるのですが、チェコ人同士の会話に上手く付いていけてなかった私は、適当にクラスメイトに賛同して、その流れに乗ることにしていました。しかし、そのまま頷いてばかりいると、話し合いの途中でテーマがいつの間にか変わっていたり、話がポイントからズレていくことも多かったです。少なくとも、クラスメイトは今どんなテーマについて話し合いをしているのかを聞いておいた方がいいと考えたこともありました。
そこで、私はある時ひらめいて、話し合いの結果だけをクラスメイトの誰かに聞くことにしました。この理由ですが、話し合いになると感情がヒートアップする生徒や早口になる生徒がいて、全く何のことを話しているのかが分からない日が続いたからです。
他にも、先週決まっていた内容がゼロになっていたり、知らないところで決定したことを教えてもらえなかったりもしました。私の他はチェコ人とスロバキア人の生徒だったので、授業に参加をしているのに、授業の内容を私がすぐには理解できないことをクラスメイトに理解してもらえなかったことが特に悲しかったです。
ラテン語や固有名詞や諺など知らないこともあった。
私は、専門用語をチェコ語で覚えるのはもちろんのこと、大学ではラテン語でも覚えたりしました。ラテン語は古代ローマで用いられましたが、現在ヨーロッパではラテン語で学術単語を覚えることが多いです。専門用語をラテン語で覚えることは、留学などで他の国へ行っても相互理解の手助けをしてくれます。いわば、世界の共通語が英語であるように、学術の世界ではラテン語ということです。
クラスメイトはラテン語に四苦八苦している印象はありませんでした。憶測になってしまうのですが、日本人よりも小さいころから近くにラテン語の存在があったことも影響を受けているのではないのでしょうか。私には、英語と違った言語なことと、見慣れないアルファベットの並び順のせいで、覚えるのに苦労しました。聞いたところによると、チェコに来る日本の医学生たちもラテン語で医学用語を覚えているそうです。
教授は難しい言葉を使いたい人が多く、時にはチェコ人も知らないような諺を使ったり、現地の生徒でさえも意味のわからない例え方をよくしました。大体は、難しい話の中で使われることが多い印象でした。教授は良かれと思って、比喩を使っていることが多いのですが、皮肉にも私には更に頭を悩ませました。そんな優しい教授に、たまに申し訳ない気持ちになりました。何度もストレートに言ってほしいと思いました。先生のドヤ顔の中、「どんな意味ですか?」とは聞くことが出来ず、ノートにメモをして、他の人に聞くことが精一杯の努力だと思います。でも、そう言う言葉や言い回しに限って、全然意味のない言葉だったりするんですよね。
スロバキア語は結構わからない
チェコ語を勉強していない、あるいは使っていない人は言います:「チェコ語とスロバキア語は似ているんでしょ?」と。
確かに、ほとんどの言葉や文法は似ています。しかし、専門用語などは似ていますが、よく使われる言葉ほどチェコ語とスロバキア語は異なります。
いくらチェコ語とスロバキア語は、似ているといっても、言語のトレーニングが必要です。例えばチェコ人の子供たちもスロバキア語を理解できません。ですから、成長していく中で、スロバキア語に触れ、そして理解をしていきます。
それからスロバキア人の友達に、スロバキア語はポーランド語のほうが似ているかもと言われたことがあります。例えば、スロバキア人は、チェコ語の『Ř』の発音ができません。この『Ř』は、ギネスブックにも載る世界で一番難しい発音と言われるチェコ特有の文字です。
少し話は脱線しますが、リベレツ工科大学の学生が「METODY MĚŘENÍ PODOBNOSTI JAZYKŮ(言語類似度測定法)」というテーマでチェコ語とスロバキア語がどれくらい似ているのか卒論を書いてました。
Texty mají tedy podobnost 55,6 % podle Levenshteinovy vzdálenosti.
(中略)
Podobnost těchto dvou řetězců je 68 %. V případě záměny slov formát a údajov:
(中略)
Po této záměně se podobnost těchto řetězců zvýšila na 88 %. Je tedy jasně vidět, jak pořadí slov ve větě výrazně ovlivní výslednou podobnost. Zde pouhou záměnou dvou slov se výsledek změnil o 20 %.
引用:METODY MĚŘENÍ PODOBNOSTI JAZYKŮ, Radek Šafařík
この卒論によると、測定方法などによるものの、レーベンシュタイン距離という比較言語学よく使われる測定方法を用いた場合、チェコ語とスロバキア語のある文章の類似度は55.6%であったと書いてありました。ただこの卒論にも書いてありますが、測定の仕方によって変わる(66%や88%になったりもする)ので「チェコごとスロバキア語は55.6%一緒だ!」とはなりませんが、二つの言語が似ているのが見て取れるかと思います。
情報が自分に回ってない
チェコ語コースのため留学生をサポートするような体制がない
私の通っている大学ではビザのことや住居のことは全て自分任せでした。締め切りや必要項目など、誰も教えてくれませんでした。ですから、現地の同じ状況の日本人や外国人と手を取り合って、学生ビザのことを自分自身でよく理解しておく必要があると思いました。他の学校やエラスムスで来た場合は、現地のチェコ人の生徒が単位をもらえる代わりに色々手伝ってくれると聞きました。例えば、ビザのオフィスに一緒に行ってくれたり、学校を案内してくれたり、自分のバディーの役割をしてくれると聞きました。また、学内に外国人生徒のためにサポートしてくださる窓口があって、分からないことがある場合は聞きに行けば教えてくれることもあるそうです。
私は、授業でチェコ語を聞き取るだけで精一杯だった時、エラスムスの学生のようなサポート(特に、言語面のサポート)を必要としました。その時、そのことを学生オフィスに問い合わせました。その後、学生オフィスの方からのご厚意で、どんな学校が外国人のためのチェコ語の勉強プログラムを開いているのか教えてもらったことがあります。ですが残念ながら、平日は大学の授業があるので、なかなか自分の空き時間と噛み合う学校はありませんでした。
チェコ人やスロバキア人は先輩から過去問やアドバイスをもらっているが、私は頼れる人がいなかった
チェコの大学では、日本のサークルのような組織はあまり活発ではありません。その代わりに、プレス(Ples)と言って、放課後ドレスを着て、ダンスパーティーに出かける人がほとんどです。その時に先輩から話を聞いたり、仲良くなったりすることで、試験のことや授業についてのアドバイスをもらいます。
チェコの大学でも、先生と大学院生、博士には敬語をもちろん使うべきです。しかし、どんなに年上でも、同じ大学生の立場だったら、敬語を使うのは可笑しく感じます。ですから、日本よりもオープンな関係性や、色々アドバイスをもらうことができます。人間はやはり自分で手に入れた試験など有益な情報は、人に簡単には渡したくないもの。それは、チェコでも同じことでした。特に仲の良いチェコ人でもいないと教えてくれません。なので自分の足で聞きにいくことをお勧めします。
輪に入るのが難しい:バスで隣に誰も座りたがらない
私が履修したあるクラスは年に二回くらい、校外学習がありました。朝大学に集合して、みんなでバスに乗り、地方へ行きます。ちなみにバスの座席ですが、これは日本と同じで、バスの後ろの5席はスクールカースト上位の女子たちが占めます。先生の後ろは、日本と同様に人気がありませんので、そこが私の定位置となりました。試しに、早めに乗り込んで、バスの真ん中の席に座ってみましたが、誰も隣に座ってくれなくて、不必要に悲しい思いをしました。
グループワークで仲間に入れてもらえない
100人程度の生徒がいるような履修人数が多い授業では、教授は一人一人のプレゼンテーションを聞く時間はありません。そういう時は、大体グループワークになります。教授から、「1チーム5人ずつ」と決められても、生徒はお構いなしです。6人にしてしまうグループもあれば、4人で組むグループもあります。私1人だけがどこのグループにも所属できなかった時、先生は大きな講堂の中で生徒にお願いをしました。今でもその光景が忘れられず、自分は同じ状況の人を見かけた時は、そんな意地悪や気づかないふりをする人にはならないぞと未だに思います。
スロバキア人や留学経験者は普通のチェコ人より優しかった
生まれも育ちもプラハ出身者よりも、チェコ人では地方から出てきた人、それからスロバキア人は、私に優しく接してくれました。チェコ人の中でもエラスムス(ヨーロッパ内交換留学)のヨーロッパ人留学生、エラスムスを経験して帰国したチェコ人学生は、外国人への考えが変わった人が多かったと思います。変わる前は保守的で、外国人には冷たく、興味がないし、気にも留めない感じでした。変わった後は、積極的になり、語学力の上達のほかに、外国人を見かけると話したくなってしまうようでした。(笑)
やはり、百聞は一見に如かずですし、聞いた百より見た五十なのです。日本人もチェコ人も何事も経験しないと分からないことが多いです。外国人としてチェコに住んでいると、日本にいた時には分からなかった経験をします。色々なことを経験していくと、昨日よりも人に優しくなれる自分がいます。
サバイバルのコツ
教授と仲良くなる(グループワークなどに入れない時は先生に相談)
ここまで私の苦労話をしてきましたが、もちろんチェコの留学生活をしていく上で私なりのサバイバル方法を身に付けていきました。おすすめのアドバイスを紹介したいと思います。
長い物には巻かれろではないですが、教授の話はなるべく聞くこと。正しく勉学の道に導いてくれる教授が多かった印象です。私個人の視点になってしまいますが、他の国で研究や留学をした経験がある教授がほとんどだったからなのかなと思います。ですから、海外で学ぶことの大変さを理解してくれていました。なんと言っても、教授はその教科や分野のスペシャリストなのです。だから、日本だったらどんなことを教わるのかと熱心に尋ねてくれたり、こんな研究書を読んだと教えてくれる教授もいらして、私は1人じゃないんだとお力添えを度々頂きました。
また、グループワークで班に入れなかったときに、教授に相談したときもありました。一人の教授は、生徒に決めさせるのではなく、事前にグループを分けてくれました。また他の教授は、個人でやることを承諾してくれたこともありました。
自分と生徒たちだけではらちが明かないことがあったら、教授のところに行くことも手です。直接会って話を聞いてもらう時間を頂いたり、時間がない場合はメールをするのがいいです。
授業に真面目に出て、わからない点は質問していく
教授は、自身の担当する授業に、積極的に参加する生徒が大好きです。それをアピールするには、授業にちゃんと通うことや授業の合間や授業の後で質問することが必要不可欠です。このことから信頼関係ができて、仕事や単位に必要な校外練習の機会を得ることが出来ました。小さなことからコツコツとやるといいと思います。
まとめ
ヨーロッパで一人留学生活をするのは大変な面もたくさんあります。中にはどうしてもうまくいかず、大学を中退したりする人もいます。どうしようもできない場合は正直それも選択肢の一つではないでしょうか。チェコで大学を卒業しなくても、他の国や大学に編入、引越しするのも決して悪いことではありません。極端な言い方をすれば、海外では時には誰も助けてもらえず、最終的には自分で自分を守る必要があるのです。自分の目的を考えて、何がしたいのか、どこの国でどこの大学にいき、どの勉強をするのが必要か考えてみてください。ある時テレビでハリウッド俳優のモーガン・フリーマンが言っていました。
どんな状況でもステージで踊り続けなければいけない。ステージにいないと誰もあなたのことを見てくれないから。
ーモーガン・フリーマンー
ステージで踊り続けていればいずれ誰かがあなたのことを気づいてもらえると言う意味でした。自分で自分を守るために、時には逃げるの選択肢ですし、周りに「助けて」と積極的に言うのも選択肢です。ぜひ両方を覚えておいてください。そして、苦労した留学経験は何にも変えられない一生ものの経験としてあなたの人生の糧になります。