反面教師という言葉の示す通り、人の過ちは時として成功例よりもよいお手本になります。きらびやかなイメージのその裏で、海外留学という選択肢は、時に人のキャリアやその後の人生のレールを大きく脱線させます。
今回は、ドイツ語学留学中に彼氏ができ、結婚を夢見たものの、彼氏の就職が決まると同時に捨てられた真紀子さん(31歳)のお話です。
日本人の男性はイケてない!
真紀子さんは、東京の短大を卒業後、芸能事務所の内勤、デパートの販売業務など、多様なサービス職を転々としつつ、25歳を過ぎると、保険業のコールセンター業務に落ち着きます。
高校時代は化粧の仕方もわからず、あまり男性からのアプローチも少なかった真紀子さんですが、短大に入学してからは徐々に、親せきや周りの女の子に可愛くなったといわれることも増えて自信がつき、合コンなどにも積極的に顔を出すようになりました。
20代前半、こうした男女交際の場に出続けていた真紀子さんは、何人かの男性に立て続けにアプローチされたため、真紀子さんも、自分は男にモテるタイプなんだと密かに自己評価を高めていきます。
こうして、いろいろな男性からのアプローチを楽しんでいた真紀子さんでしたが、20代後半んいなるまで、結婚に至ることはありませんでした。
というのも、実際のところ、魅力的な男性のほとんどは真紀子さんとの長期的な関係に意欲的ではなく、寄って来るのは背も年収も顔面偏差値も低い、真紀子さんからみていわゆる「魅力的でない」と映る男性ばかりです。
デートに行っても割り勘、車の運転も下手で、デートの誘い方もスマートではありません。そうしたイケてない男達を見て、真紀子さんは、日本の男はなんて情けないんだろう、と思い始めます。
真紀子さんは一度、短大卒業前の1ヵ月を使って、ニュージーランドで語学留学に行ったことがありました。英語こそ上達しなかったものの、そこで一晩を過ごした白人人男性のなんと優しかったことか、思い起こしては、自分に寄ってくる日本人男性と比較します。
こうした真紀子さんの中に、朧ながら、海外で長身イケメンの彼氏をゲットし、結婚したい、という願望が、20代後半あたりから芽生え始めます。
ワーホリの年齢制限は多くの国で31歳の誕生日までです。真紀子さんは、30歳までコールセンター業務を続けますが、30歳の時に思い切って、憧れだったドイツへのワーホリを企画します。
このとき、貯金は200万円ほどで、1年は働かなくても十分に暮らしていける額が口座にはありました。
ドイツ語学留学最高!虫のように寄ってくる欧米の男達
真紀子さんの中で、ドイツを選んだ理由はなんとなくでしかありません。身近に思えるカナダやアメリカに比べると、なんとなく異国風情があり、かつサッカー選手などを通じてたくましい、男らしいポジティブなイメージを抱いていました。
30歳にして、ドイツ語のドの字も知らずドイツでの語学留学を開始した真紀子さんですが、語学学校での生活は楽園そのものでした。
同じクラスのオランダ人男性から早々に電話番号を聞かれたり、クラスメイトからは「ドイツ語知らないでドイツに来るなんて、すごいチャレンジングだね!」と持て囃され、自分が誇らしい気持ちになってきます。
語学学校にいる欧米人の男性たちはみな優しく、コーヒーを奢ってくれたり、勉強で分からないところを教えてくれたりと、日本人の男性からは到底受けてこなかった扱いをうけ、さながら王女様にでもなった気分です。
自身のツイッターでは、私のような顔の日本人女性は欧米ではモテるタイプ、日本人男性はいけてないから、こっちに私のように来たほうがいい、と呟き共感を得ることに夢中になります。
ある時、日本人男性の語学留学者が同じ学校に入ってくると、ここぞとばかりに真紀子さんは説教をします。
「日本人女性とドイツ人男性のカップルって多いけど、その逆は少ないよ」「もっと欧米人みたいに体鍛えないとかっこ悪いよ、日本人の男性ってスタイル悪いよね」
こんな真紀子さんの態度は当然日本人コミュニティからは煙たがられますが、真紀子さんはそれを「日本人っていつもコミュニティになってかっこ悪い。自分みたいにもっと現地の人とコミュニケーションすればいいのに」と否定的にとらえます。
ちなみに、この時真紀子さんはドイツ語はおろか、英語を使用しても、簡単な意思疎通が、できるかできないかあやしい語学レベルでした。
ドイツ人エリートの彼氏をゲット:人生の絶頂期へ
語学学校が始まって1ヵ月、多くのアクティビティが各所で催されました。
毎週末池のほとりでおこなわれるビールパーティ、自宅でのサッカー鑑賞パーティなど、真紀子さんはこれぞ自分の求めていた青春生活だと、心から満足します。
やがて、真紀子さんは同じクラスのオランダ人、スイス人とつるむようになり、夜な夜なクラブへ通い始めます。
すでに、クラスのオランダ人、スイス人の男性とはセックスを経験しました。誰でもやらせてくれるちょろい女性だといううわさが語学学校中に立ち、他のクラスの男も真紀子さんのもとに寄ってきますが、真紀子さんはそれを「欧米人にモテている私」と、好意的にとらえます。
日本ではおこなったことのない、生での性交渉も体験しました。性交渉後、薬局でアフターピルを簡単に購入できるため、妊娠の心配はありません。
ある時、いつものようにクラブに通っていた真紀子さんに、運命的な出会いがありました。地元の大学に通うイケメンのドイツ人にナンパされ、一夜を過ごします。今までの軽いノリの語学留学生と違い、洗練された愛撫、知的な誘い文句に、真紀子さんは心ときめかせます。
私に見合うのはこの人しかいない、と決め込むと、翌日もその男性の家に行き、押し倒すように関係を続け、交際をスタートさせることに成功します。
気分はもうドイツ人婦人
ドイツ人エリート彼氏との交際がスタートし、真紀子さんのドイツ留学はその絶頂期を迎えます。
語学学校は9時からのスタートですが、彼氏の家にお泊りした日はあからさまに授業に遅れていき、昨日は彼氏の家にいた、とクラスメートに嘯きます。
言葉は通じないものの、料理をしてあげると彼氏は喜び、真紀子さんの腕前を褒めたたえました。
セックスは紳士的で、行為後、真紀子さんの体を愛撫しながら、ベッドの上で愛をささやきます。真紀子さんに意味の分からないドイツ語を、一緒にグーグル翻訳で調べ、意味が違う、と笑いあったりしました。
「ドイツでは普通だから、できれば真紀子には下の毛を剃ってほしいな」
ある時、彼氏にこう言われ、真紀子さんは生まれて初めて彼氏のために、下の毛を剃ります。
真紀子さんにとって、もはや語学学校にいる他のアジア人が下界の人間のように思えてきます。
「ドイツ人の初任給って、日本人と違って500万円くらいあるみたい」「日本人とちがって、17時には会社が終わるから、そのあとは家族の時間を大事にするんだって」「ドイツの男って、日本人と違って料理の片付けもしてくれる」
と、短大時代の友人と話すときも、もはや自分がそのドイツ人と結婚したような錯覚に陥っていました。真紀子さんは、語学学校が終わったら、すっかり彼氏の家で一緒に暮らすつもりです。
ネットによると、配偶者ビザの申請には、結婚から3年必要だが、その間は仮のビザが下りるとのことで、真紀子さんは、現在のワーホリビザが期限切れとなったら、その手続きを得るよう、彼氏に相談するつもりでした。
夢の終わり:淡泊なドイツ人の分かれ方
さて、そんな真紀子さんの夢のプリンセス生活にも幕が下りる時が来ました。
ある時、真紀子さんは、語学学校卒業後のプランについて、彼氏に相談します。「同棲して、将来的なプランを立てていきたいね」
ところが、そんな真紀子さんの期待とは裏腹に、彼氏の口から出たのは驚くべき答えです。
「ごめん、真紀子、来月からベルリンで長期インターンがあるから、引っ越すことになってる。そのタイミングで別れよう」
真紀子さんは耳を疑います。自分のドイツ語の能力が足りなく、もしかして誤解しているんじゃないかと思い、しっかりと彼氏に、今度は紙に文章で書かせて何を言わんとしているのか確かめます。
「真紀子はいい女性だけど、年齢も離れていて成熟しているし、僕よりもきっと、もっと素敵な男性と巡り合えるよ」
何度聞き返しても、彼氏の口をついて出てくる言葉は、別れの言葉です。
語学学校卒業後は、すっかり彼氏のところに転がりこむつもりでいた真紀子さんには、その後のプランなんて何もなく、真っ白になりました。
すでに、今いるアパートには退去を申し出ていますし、語学学校の契約も切れます(そもそも、すっかり彼氏に入り浸っていたため、ドイツ語は全く向上せず)。
夢よもう一度:ドイツで婚活第2章
あっさりと本命のドイツ人彼氏(多分、向こうからしたら本気の関係ではなかった)に振られた真紀子さんは、我が子を失ったライオンの母親が探し求めるように、狂ったように出会い系アプリで新しい彼氏を探しはじめます。
日本人である真紀子さんは、出会い系を使えば、ごろごろとマッチングが引っ掛かり、デートまでこぎつけることが可能です。
ところが、1、2回会って、真紀子さんにドイツ語も英語も話せないことがわかると、とりあえず家に持ち込まれてセックスをし、そのまま真剣な付き合いにはならない、という手合いが続きました。
欧米人の言葉の通じない関係に疲れ果てた真紀子さんは、今度は語学学校卒業後、真紀子さんは日本人駐在員の多いDüsseldorfに移住、ここで、商社や大手メーカーから派遣された日本人駐在員男性に狙いを定めます。
「外人にこれだけモテるんだから、日本人なんて余裕だろう」
真紀子さんはそうたかをくくっていましたが、高学歴、高収入、語学に堪能である駐在員男性が、真紀子さんのようなどこの馬の骨とも知らないビッチを相手にすることはありません。
Düsseldorfの日本人会に顔を出しては、いろんな人脈を作ろうとしますが、駐在員、研究員、サッカー選手の卵や交換留学生がたむろう日本人会の中で、すでに30歳を過ぎ、定職にもつかずプラプラしている真紀子さんは、すっかり色物扱いです。
結局、出会い系で知り合った外人と一晩の関係を繰り返し、という生活をDüsseldorfでも繰り返し、やがてワーホリビザの期限1年が過ぎると、後ろ髪ひかれる思いで日本へと帰国していきました。
現在も、真紀子さんは日本で白人彼氏を見つけるために婚活中とのことですが、その後、どうなったのか誰も知りません。